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富士重工業(スバル)によって1991年9月に販売開始された3.3ℓの高級2+2パーソナルクーペ。海外でのブランド名はSVXだが、日本でのブランド名はアルシオーネSVX(2代目アルシオーネ)。
イタリアの著名なカーデザイナーであるG・ジウジアーロ率いるイタルデザインがスタイリングを担当した。当時としては先進的な4WDシステム(VTD機構付き;不等&可変駆動トルク配分)とスバル独特の3.3L水平対向6気筒エンジンを搭載し、その性能は世界屈指のグランドツーリングカーといっていいものであった。発売当初は豪華装備のバージョンLと幾分簡略化されたバージョンEというグレード構成で、後にバージョンEをベースにしたS3やS40、S4といった仕様や限定車がラインナップされた。
当時の関係者がSVXを次のようにうまく説明している。
SVXは「短距離ランナー的なスポーツカー」ではなく、路面や気象状況の変化にも左右されない「走り」と「安全性」、それに「快適性」を具備することで長距離ドライビングに適したトップレベルの「スポーティ・グランドツアラー」 (「スバル技報」
第19号 (1992)の巻頭言より |
バブル最盛期の中でのデビューだったが、贅沢を尽くした他社メーカーのクルマとは一味違った、スバル独特の4WDクーペに仕上がっていた。
なお、1985年に初代アルシオーネは、独特のくさび形ウェッジシェイプで高い空力性能を誇り、日本初のCd値0.30以下(0.29)を記録した。また、アルシオーネはハイテクの塊というべきクルマで、1987年には国産初の水平対向6気筒エンジン、アクティブトルクスプリット型4WDシステム(ACT-4)等を装備していた。SVX登場までに約10万台が生産され、日本より欧米で人気を博した。
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1. 開発の狙い (「自動車技術」
Vol. 46, No. 1 (1992)より) |
■ 開発目標:
「国際性のある真の4WDグランドツアラの創造」であり、走りを表現するダイナミッで洗練されたスタイルをベースとして、性能的には走り・快適性・安全性の基本性能を高いレベルでバランスさせる車、長距離を感動をもって走れる車を目指す
○重点
- グラスtoグラス・ラウンドキャノピの新感覚スタイリングの実現
- 4WDの新しい走りの創造
- 基本となる安全性の徹底追及
*補足* 開発の狙いを「スバル技報」第19号では
- 21世紀に繋がるスバルのイメージリーディングカー
- 確かな基本性能に支えられた“新しい次元の走り”を感じさせるハイレベル商品
- 高付加価値を備えたクルマであることをユーザーに訴える、スバルの企業メッセージとして、アドバンスなスタイリングで具現化
- “Well-Made”(エクステリア、インテリア、防錆、建付、塗装品質、等)なクルマ創り
- 高性能、高機能、高品質を柱にし、これら3要素を各市場要望に合致させた商品
- 米国と日本市場に対応する上級車としての車格感を備えたクルマ
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2. 車両各部の概要 (「自動車技術」
Vol. 46, No. 1 (1992)より) |
■ エクステリアデザイン: 「空力を基調とした存在感のあるダイナミックスさ」
■ インテリアデザイン: 「ビジュアルで開放感のある居住空間」
■ エンジン: 「3.3ℓ水平対向6気筒DOHC24バルブ、240PS、トルク31.5kg・mの自然吸気方式のエンジン」
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低速からのスムーズで力強いアクセルレスポンスを実現
■ パワートレーン: 「電子制御4速フルオートマチックと組み合わせたVTD-4WDシステムの搭載」
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グランドツアラーにふさわしい全天候型の安定性と洗練されたスポーツ感覚の走り
■ シャシ
- サスペンション: サブフレーム付4輪ストラット式サスペンション
- 4WS: 油圧部品を使用しない電動タイプ
- ステアリング: 車速感応型油圧反力電子制御式パワーステアリング
- ブレーキ: 4輪ベンチレーテッドディスク、4WD用ABS
- ボディー: エアロダイナミックデザインと高剛性を両立したモノコック構造
■ 安全性
- 高度な走りを裏づけるセイフティメカニズムの採用: VTD-4WD、LDS、ABS、ほか
- ドライバの疲労を軽減し、誤操作しにくいセイフティメカニズムの採用: 空調性能、ほか
- 万一の事故から乗員を守るセイフティメカニズムの採用: SRSエアバッグシステム、ほか
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3. ハンドリング性能 (「スバル技報」第19号より) |
■ 基本概念: (1)誰でも (2)どこでも (3)いつでも、高性能を楽しめて、かつ安全性と快適性を
犠牲にしない高バランスなクルマ創り
■ 開発の狙い (「走り」と「快適性」を高次元で両立させるために)
- 操舵に対して、リニアな回頭制、ダイレクトな追従性と高質な振動騒音性能の両立
- ふところの深いストローク感のある乗り心地と素直で揺り戻しのないロール感の両立
- 直進安定性と高G旋回性能の両立
- 高μ路と低μ路での優れた操安性の両立
■ 具体化するためのシステム
- フロントサスペンション: マクファーソンストラット方式
- リヤサスペンション: デュアルリンクストラット式
- 後輪操舵機構: 4WS
- 4輪駆動機構: VTD (駆動トルクを前輪36、後輪64の割合に配分)
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4. 各国仕様に採用された4WDシステム |
SVXに採用された4WDシステムは各国共通ではない(何とアメリカにはFF仕様のSVXがある)。商品企画本部担当部長K氏の説明によると、
「米国では直進安定性と乗り心地が求められ、日本では操縦性が求められる。そのため、国内仕様のセンターデフはハンドリングに貢献するVTD、米国仕様にはアルシオーネVXのACT-4を搭載。しかし、国内外を問わず欠かせない要素は安全性」 「日刊自動車新聞」(1991.10.11)
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国名 |
4WDシステム |
日本 |
VTD |
アメリカ |
ACT-4 |
カナダ |
ACT-4 |
イギリス |
VTD |
オーストラリア |
VTD |
ドイツ |
ACT-4 |
フランス |
ACT-4 |
スイス |
ACT-4 |
ベネルクス3国 |
VTD |
スペイン |
VTD |
オーストリア |
VTD |
ブラジル |
VTD |
タイ |
調査中 |
イスラエル |
調査中 |
*カタログから推定したものもあり、間違っていたらご指摘下さい。
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5.
何故、リトラクタブルヘッドライトではないのか? |
ジウジアーロのオリジナル・デザインでは、SVXは固定式ヘッドライトではなく、ハーフ・リトラクタブル(格納式)ヘッドライトとなっている。何故、リトラクタブル式が不採用になったのか。 不採用の理由が、2001年3月10日号の「CAR and DRIVER」誌」で語られている。社内ではジウジアーロのオリジナル・デザインを推すグループと、(格納式だった)初代アルシオーネの失敗による呪縛を解きたいグループによって、喧々諤々と議論が交わされたが、商品管理部の「コスト高なので不採用」という鶴の一声で固定式に決まった。 個人的には、固定式ライトが採用になったおかげで、JRピアッツァに似た感じになった、と思うのだが、コスト高で不採用とは・・・。しかし、この記事だが、1989年10月の東京モーターショーに出品されたSVXがリトラクタブルヘッドライトだった、とか基本的なことの間違いが散見され、信憑性はどうなのだろうか・・・。 |
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6.
ジウジアーロ・デザインと分かったのはいつ? |
大半の方は、SVXのデザインが、1991年9月のデビュー時にジウジアーロによるものだと知ったのではないか、と思う。当時のスクープ雑誌「ニューモデル・マガジンX」を数年分調べたのだが、結局1991年10月号の座談会で始めて「SVXのデザインはジウジアーロ」と書かれてあった。クルマのことに詳しい方に聞いたところ、T大寺先生が1991年1月に行われたロサンゼルス・オートショーのことを書いた記事に出てきたのが最初ではないか、と思うの回答を得た。
実はもっと早く、1991年以前にジウジアーロがスバルのフラッグシップをデザインしている、という事実が分かっていた。1988年2月6日付けの「日経産業新聞」には以下の記事が掲載されていた。
富士重、伊ジウジアーロと提携――次期型「アルシオーネ」開発、デザイン力向上
T大寺先生やM本先生なら同紙を読んでいただろうが、普通の自動車評論家が「日経産業新聞」を読んでいたとは思いにくい。誰も読んでいなかった、ということで、結局はみんな知らなかった、ということだろう。 |
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7.
初代アルシオーネのデザインはジウジアーロか? |
出所は「Six
Star Magazine」 Vol. 3 ()。未見だが、125ページに「初代アルシオーネのデザインもジウジアーロ」と書かれているらしい。確かに初代アルシオーネとジウジアーロ・デザインのロータス・エトナ(だったか)はよく似ているといわれたものだが・・・(エトナの方が丸みを帯びていて格好良い)。どう考えてもガセネタ。御大のデザインだったら、T大寺さんが怒るようなデザインにはならなかっただろう。 |
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8.
アルシオーネとアルシオーネSVXの生産台数は?
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SVXの総生産台数は24,379台(初代アルシオーネは98,918台)。国内登録台数は5,951台(*1)+アメリカ販売台数14,257と言うことから、イギリス、ヨーロッパ、オーストリア、タイ等での販売は4,000台前後だった、と推測される。
*1
1997.10.21のリコール対象台数は5,954台
西暦 |
国内生産台数 |
国内登録・届出台数 |
米国販売台数XT |
米国販売台数SVX |
1985 |
4,811 |
3,315 |
14,464 |
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1986 |
31,415 |
1,561 |
23,947 |
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1987 |
30,461 |
1,782 |
17,901 |
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1988 |
16,448 |
777 |
14,077 |
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1989 |
13,473 |
337 |
11,088 |
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1990 |
1,266 |
163 |
1,276 |
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1991 |
1,058 |
1,757 |
1,309 |
1,513 |
1992 |
13,568 |
1,325 |
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3,667 |
1993 |
2,978 |
843 |
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3,859 |
1994 |
2,679 |
961 |
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1,666 |
1995 |
2,721 |
703 |
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1,801 |
1996 |
1,573 |
385 |
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1,111 |
1997 |
846 |
2 |
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640 |
合計 |
123,297 |
13,911 |
84,062 |
14,257 |
『富士重工業50年史 資料集』より
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