■ ロータスとの提携
いすゞ自動車とロータスが若者向けの高級車を共同開発を行う、という報道は1986年9月1日の「日経産業新聞」が始めてだと思われる。
いすゞ自動車は、1986年12月に英国グループ・ロータス・パブリック社との間で、「10イヤーズ・アコード」と称する友好憲章を取り交わし、翌1987年2月4日 技術提携の基本協定に調印を行った。協定内容は、いすゞがロータスにエンジンを含む部品を供給する一方、ロータスはいすゞに高性能車の技術を提供するというもの(『いすゞ自動車50年史』、「10イヤーズ・アコード」という言葉は「Car
& Driver」 1988.6.26)で、協定の有効期間は10年で、両者間で10年協力体制を組むこととなった。ロータスが1986年に、トヨタ自動車(当時株式20%保有)との資本提携を解消して米GMの100%子会社となったのが契機となり、この提携は両社の体質強化を目指すGMの仲介で実現した。当時のGMのいすゞ株式保有率は38.6%(「日本経済新聞」
1987.2.5朝刊)。また、ロータスは米国でのロータス社販売網の整備計画を進めており、その一環としてAIMI(アメリカン・いすゞ・モーターズ)の販売店の一部でロータス社を販売することになった(「日経産業新聞」
1987.7.17)。
■ handling by LOTUS誕生まで
日本のピアッツァの1986年の販売台数は2,404台、一方、米国輸出仕様インパルスの1986年の販売台数は12,864台と、ピアッツァの存在は米国市場なしではありえない状態になっていた。しかし、インパルス(即ちピアッツァ)のサスペンションは旧型のFRジェミニと同じ仕様なので、インパルスは外観に比べると足まわりのスポーツ感に欠けるという声もあり、米販売店からも新車種の投入を求められていた(「日経産業新聞」
1987.7.17)。インパルス(即ちピアッツァ)のhandling
by LOTUSはロータス社との共同開発の第1弾となった。インパルス初のDOHC塔載車か、との報道もあった(「日経産業新聞」
1987.7.17)が、結局、いすゞ自動車の台所事情で見送られた。
米国で1987年8月発表、9月に販売開始したところ、ユーザーの反応も良く、1988年2月までに米国で月間平均700台が販売されたが8〜9割をロータス仕様車が占めた。このことから、1988年夏までに国内のピアッツァにもロータス仕様車を投入することが決定された(「日経産業新聞」 1988.3.26)。1988年6月に販売開始されたロータス仕様車は、6,7,8月と3ヶ月連続してピアッツァ・シリーズ中の60%以上を占めた(「Car & Driver」
1988.10.26)。販売目標は(シリーズ全体で)月間500台だが、1-7月の累計販売台数は約1千台。7月の車種別売り上げ構成は、ロータス車約60%、イルムシャー約7%という結果となった(「日経産業新聞」
1988.8.29)。また、いすゞ自動車はロータス仕様車を「大人」のユーザーをターゲットにした(「Car
& Driver」 1988.6.26)が、ピアッツァの全販売台数の約55%を販売するヤナセ向け仕様のピアッツァ・ネロのユーザーの平均年齢層は32歳程度。イルムシャーは20歳代前半の若者多く、ロータス車は30歳前後が中心ということでアダルト向けスポーティーカーのイメージが固まりつつある(「日経産業新聞」
1988.8.29)、という風に、メーカーが意図した通りとなった。
年月日 |
出来事 |
1986.12 |
いすゞ自動車と英国ロータス提携合意 |
1987.02.04 |
協定に調印 |
1987.08 |
米国仕様インパルスのロータス仕様車発表 |
1987.09 |
米国仕様インパルスのロータス仕様車発売 |
1987.10 |
ロンドン・モーターショーで欧州用のロータス仕様発表 |
1987.10.29 |
東京モーターショーで日本用ロータス仕様車参考出品 |
1988.02 |
英国と(スイス?)でロータス仕様車販売開始
*スイスもっと後か? |
1988.02 |
日本用ジェミニ・ロータス仕様車発表 |
1988.05.23 |
日本用ピアッツァXE handling
by LOTUS発表 |
1988.06.04 |
日本で販売開始 |
1989 |
スウェーデンで販売開始 |
1990.02 |
最終型のXE LIMITED handling by
LOTUS発売 |
■ handling by LOTUS仕様の開発コンセプトと目標性能
コンセプトは、「ヨーロッパで通用するGTクーペ」
目標性能は、
- 安全性の高いハンドリング
- プログレッシブなハンドリング
- 究極のロードホールディング
- 正確で手応えの良いステアリング
- 疲れのこないフラットな乗り心地
- ファン・トゥ・ドライブ
以上、「Motor Fan」 (1988.7)より。
* 「いすゞ技報」 No. 79 (1988.5)では、「世界に通用するGTクーペ」となっている
■ 各国仕様について
- 1988年型インパルス
- サスペンション・チューニング
- イルムシャー仕様との比較
- 各国仕様の外観上の違い
- 各国仕様の内装上の違い
■ 日本での評判
「Car
& Driver」誌には、オーナーがマイカーの評価する「シリーズ・不満と満足」が連載されている。ピアッツァのロータス仕様車についても1988年10月26日号に、当時のオーナーによる評価が掲載されており、新車で購入したオーナー達の本音を知ることができる。
設問 |
回答 |
ピアッツァ・ロータス以前の所有車 |
ピアッツァ10名 アスカ2名 その他7名 はじめて2名 |
購入時の比較対象車ベスト4(複数回答) |
プレリュード5
シルビア4 セリカ3 RX-7
3 |
ライバルと考えるクルマ・ベスト4(複数回答) |
プレリュード10
シルビア5
セリカ4
BMW3シリーズ3 |
満足しているポイント・ベスト4(複数回答) |
スタイリング10
乗り心地5
操安性5
稀少性4 |
不満なポイント・ワースト4(複数回答) |
パワー不足6
居住性5
ボディ剛性不足5
燃費、リアサスの構造、騒音の高さ 各4 |
総論 |
23名のユーザーが最も評価したのはスタイリングである。ジウジアーロ・デザインの美しいフォルムは、ハイマウント制動灯付きリア・スポイラーやBBSアルミにより、いっそう魅力を増したといえる。ただ、「デビュー当時のオリジナルのほうがよかった」とするユーザーが4名いた。注目のロータスチューンド・サスは「乗り心地と操縦性を高次元でバランスしている」と好評だ。イルムシャーから乗り換えたユーザーは、リアのつき上げ感が増してよく粘るようになった」と報告している。「高質なドライブ・フィーるを実現する」というメーカーの狙いは成功しているようである。エンジンに関しては「ノイジーでパワーも不足気味」という声が多い。4バルブ・ツインカムの登場が待たれるところだ。インテリアの仕上げはデビュー当時に比べ、かなりよくなっているようである。ユーザーの平均満足度は87%と高かった。 |
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